近くて遠い

隣国ニュースを拾い読み

人民網のショートムービー「建功立業」を見て

 今回は、7月4日に人民網にアップロードされた9分間ほどのショートムービーを紹介したい。
まず、内容は以下の通り。

シーン1

 主人公のタクシー運転手(朱さん、50代後半の男性)が荷崩れによる交通渋滞情報を交通情報番組へボランティア報告し、その後、携帯電話で今日の乗客の忘れ物を届けることを落とし主の乗客と約束。ところが、腰につけたポシェットに入れてあったはずのその乗客の忘れ物をなくしたことに気づく。

シーン2

 道端に車を止めて念入りに車内を探すが見つからないため、今朝交通事故に遭ったけが人を一緒に救助したガードマンのところへ行って尋ねてみる。しかし、「そんなの知らないよ。あんたどこに行ったかよく思い出してみなよ」と言われ、運転手は落とし物の主を降ろした後のことをふり返る。

シーン3

⛅回想
 主人公が「空港から200元の長距離のお客さん。今日はついてるなあ。」と言いながら車の中を拭き掃除。すると、後部座席の下にノーブルブルーの小箱が落ちているのに気づく。と、その瞬間、数メートル先からガードマンが走ってきて「運転手さん、ちょっと車を貸してくれ!」と言い、頭から血を流したお爺さんを連れてくる。最初は「先約があるんだ」と話していた運転手だったが、けが人を見るとすぐ「早く乗って!」と親切にけが人を自分の車に乗せる。付き添ってきた病院で看護師から「ご家族の方、会計してきてください」と呼ばれ、見ず知らずのお爺さんの治療費を支払ってあげる。この時には例の落し物はまだポシェットの中にあった。
 その後、道端でバイクの故障で困っているフードデリバリーの青年を見かけると、「この辺にはバイク修理店は無いな。デリバリー時間内に届かないとマイナス評価食らっちゃうだろう?乗りなよ!」と言って配達地点まで乗せてあげる。運転しながらミラー越しに青年を見て「おまえさんどっかで見たことあると思ったら、この間火災現場の救助活動で活躍した人じゃないか。ニュースで見たよ。今日はあんたを無料で乗せるよ。」と言う。
 つぎに食堂へ行き、お金がなくてオーダーできずに困っている様子のお客を見かけると「“一人前セット”を頼むといいよ」と話しかける。(実際には、この運転手がおごっている)そして、自分のいつものテイクアウト分もオーダーしてから、店の前でタクシー車両を乾拭きする。ここで、回想シーンが終わり、運転手は何かを思い出した表情になる。

シーン4

 最後に寄った食堂に戻って、どこかに落ちていないか探していると、食堂の店員さんが「朱さん、これを探してるんじゃないの?」と例のノーブルブルーの小箱を見せる。これは、さっき運転手がおごってあげたお客さんが拾ってくれたものだとのこと。運転手は、ホッとして大喜びで小箱を受け取る。

シーン5

 運転手は入院している自分の妻のところへテイクアウトした食堂の夕食を届ける。(中国では、病院食が提供されるところは少なく、入院患者の食事は家族が準備するのが一般的だ。)「遅くなって悪かったな、お腹空いてただろう」とやさしく言いながら、妻の前に食事を並べる。妻も「もう今日は仕事に戻らないでいいわよ。今日の分がまだ稼げてなくても、もうあがりにして。」と夫を思いやって話す。しかし、運転手は「今日はどうしても戻らんといけないんだ」と言って病院を出る。

シーン6

 落とし主のところへ到着し、落とし物の小箱を渡す。「家族の用事があったので、遅くなってすまなかった」と言うと、お客の方は「無理だと思っていたのに、本当にこちらこそありがとう」と話す。運転手は「こんなに大事なもの、どんなことをしても搜すさ!」と答えながら昼間の乗客の様子を思い出す。
⛅回想(その日の昼間、乗客を乗せて運転しながらミラー越しに彼の話を聞く運転手)
 後部座席に乗る客が大事そうにノーブルブルーの小箱を両手で触りながら話す。
「私と妻はふたりとも駅で働いていたんだけれど、私は昼間の勤務が多くて彼女は夜勤が多かったんです。祝日もシフト制だからまるで遠距離恋愛みたいにして付き合っていて…。去年ようやく入籍したばかりだったんだけれど、緊急任務が入って、自分たちは結婚休暇も自主的に取り消したんだ。指輪を買う時間すらなくて…。今回は埋め合わせをしなくっちゃ。」
(話の様子から、おそらく鉄道公安の人だとわかる)

シーン7

 家に帰る途中の運転手。感慨深げな表情で運転していたが、路肩に停車して、お守りのように運転席の前に置いてある家族写真を眺める。写真には、運転手と妻が並んで座るうしろで二人の肩を抱くようにして立つ人民解放軍の息子が写っている。
⛅回想
 息子がまだ5~7歳くらいのころの運転手一家が路上で夫婦で新しく手に入れたタクシー車両を磨きながら小さな息子と話している。若き日の主人公が「これからは、行きたいと思ったところへいつでもいけるさ。どこへ行きたいか言ってごらん。」というと、ボンネットの上に座りリンゴを丸かじりしながら「キリン見に行きたいなあ。それに、海も見に行きたい。」と子供は無邪気に答えた。「お父さんのせっかくの休みに、何言ってるの」と母がたしなめると「何言ってるんだ、どこでも連れて行ってやるよ。ところでおまえ、大きくなったら何になりたいんだ?」と子供に向かって話す主人公。息子「人民解放軍だよ」、主人公「わ、お前聞いたか?人民解放軍だって」、妻「ええ、ええ」セピア色の懐かしい情景が主人公の心の中で思い出されている。

シーン8

 回想シーンが終わり、家に帰る。誰もいない部屋に向かって「ただいま」という主人公。仕事着を脱ぎ、冷蔵庫からリンゴを一つ取り出す。息子の写真の前に供えてから「今日もお前に恥ずかしくない働きをしてきたよ」と話しかける。一人息子は任務中に亡くなったらしいことが分かる。人民解放軍の制服と共産党バッチがアップにされる。
 翌日の主人公の変らぬボランティア精神あふれる生活が始まったところで動画は終わる。

 最後に主人公、フードデリバリーの若者、食堂の店員さん、落とし物をしたタクシー乗客、国境警備中に亡くなった息子の顔写真が並べられ、「彼らはみな同じ共産党員である。彼らは私たちのそばにいる」という解説が出る。
つづけて習近平の声で「普段から見てわかる。大事な時には立ち上がれる。危機を乗り越えなければならない時には必死になって力を出す。すべての共産党員は、民族復興という偉大な目標にむかい、党と人民のために功を立て業を成している!」という締めのナレーションが流れ、「この動画を通して、あまたいる一般共産党員たちに敬意を表する」のテロップで動画は終わる。

【感想】

 人民日報のウェブサイト版である人民網は現在マルチメディア化を推し進めており、多くの動画が視聴できるようになっている。市民の生活に密着したものから、政府のプロパガンダ的なものまでさまざまあり、党が人民に近い存在であることを印象付けている。しかし、内容的に党の政治路線に外れることは決してない。
 このショートムービーの主人公のような息子を軍事任務で喪い妻も入院中というタクシー運転手が、党員として精一杯身の回りの人たちに貢献しようとする姿を見て、中国の市井の人々は何を感じるのだろうか。今の中国の文芸路線が表れている動画だと思う。
 ちなみに大学でも「毛沢東思想概論」などの授業では、学生たちがショートムービー(微電影)を作成する課題がよく出されているが、学生たちが作る動画もこの路線と同じである。